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もうこんな風に開き直るしかないほど機を逸した書きかけのゴミ達が無駄にフォルダに溜まってます。
フレプリのラビリンス話とか今更どんな顔で出したらいいのか分らない。
毎回毎回旬を過ぎてからハマる上に遅筆なので救いようがないです。VP2も書くよ!TOHもやるよ!!
そんな私が今七割過ぎて詰まっているのは「もしも貴方の室町将軍が12人になったら…」という
私の私による私の為の室町ハートフルラブコメディー…真剣に頭が悪すぎる発想でどうしよう。
「幸福の家」(幸隆と勘助と)
大河「風林火山」放送時にボチボチ書いてたものをサルベージ。
微妙に大河ベースでぶっちゃけ我が家仕様で昔語ってた妄想ネタが使われています(痛い)
あとかっこいい幸隆様とかいないです。内野●陽もいないです。
まあ、何が言いたいかっていうと閲覧注意ってことですよ。
今日も真田屋敷に子供たちの甲高い声が響く。
時々悲鳴のようにさえ聞こえるそれとだんだんだんと響く物音と足音を遠くに聞きながら、
勘助は目の前で腹を抱えて笑い続ける男を一つっきりの呆れ果てた瞳で見ていた。
目の前の男といえば何が面白いのか、いや事実何もかもが面白くてしょうがないのだろうが、
このまま放っておいたら笑い死ぬのではにかと思うくらい笑い転げている。見事な笑いっぷりだ。
遠くで響く声と目の前の笑い声に挟まれて、勘助はすっかり癖になってしまったため息を吐く。
こういうことを言うと何もかもが台無しになるのだが、
実はこの男のこういう姿はちっとも珍しくなかった。むしろ日常茶飯事である。
武田が誇る先方衆が一人、攻め弾正こと真田幸隆は三度の飯より悪戯が好きな性質の悪いおっさんだった。
「………………今度は一体何をなされたのですか、真田殿。」
「ひー、ひー……おうおう、何だ勘助。その言い方ではわしが何やら仕組んだようではないか。」
「事実でござろうが…先ほど信綱殿が酷く青ざめたまま全力疾走しているのを見かけましたぞ。」
「そうかそうか……くく、うくくくくくくく……!!」
言い逃れをするつもりなど微塵も無く、むしろ自分が犯人だと見せ付けんばかりに
再び笑い出す幸隆に、勘助は本日恐らく二度ではすまないであろうため息を再び吐いた。
幸隆が言うには本日の騒動はこの通りだ。
幸隆は幼いころから子供たちに妙な言葉を覚えさせるのが好きだったようで、
たまたま猫を”にゃんにゃん”と呼んでいたらしい。当然子供たちはそれを覚える。
成長した子供たちはそれが世間と如何に食い違っているかに気づいたが、
長年癖になったものは戻らない、あまりに恥ずかしいその暗黒部を必死に気を張り制御してきた。
しかし、先ほど、ついうっかりだ。恐らく別のことに気を巡らせていたのだろう、
一家の長男信綱は、人前で――ほんとうについうっかりだ、口を滑らせてしまったらしい。
その後はもう大体言わずとも分かるだろう。
生真面目な信綱は自分のしでかした失態に青ざめ、羞恥と自己嫌悪で現在納屋に引篭もり中である。
そして現在硬く閉ざされた納屋の周りで、彼を慰めんとするいたいけな弟たちによる
天岩戸大作戦(幸隆談)が実行されているというのである。詳細終わり。
要するに幸隆の時をかけた悪戯心が表れた結果なのだった。
あんた自分の子供で遊んでどうする。思っても勘助は言わない。言っても無駄だからである。
子供たちの不憫さを哀れみながらせいぜい目の前の男をじと目で見るくらいであった。無力だ。
「いやもう本当に源太ってばわしの息子にしてはありえないくらい生真面目というかな…!!反応で言えば源五郎と違って素直すぎるきらいはあるが…やはりこちらもやりがいがあるというものだ、いやいや流石わしの息子で真田の嫡男。ああ、うちの息子どもはまこと面白い!」
「……ご子息が哀れでなりませぬ……」
ああ、哀れなる子供達よ。悲しいかな子は親を選べないのだ。
勘助はただただ子供達の健やかな成長を祈らんと心中で静かに手を合わせた。
…ところでこういうのは誰に祈ればいいのだろうか。摩利支天…ではない気がする。
「面白いことが好きなのよ。」
幸隆はにやり、と笑ってそう言いきった。
幸隆が面白いことを何より好むことはよく知っている。というか身にしみてよく知っている。
自分もこの男の悪癖には何度も何度も被害を受けたものだ。思い出したくもない。
それだけ信頼されているのだ、親しい人間なのだと言ってしまえばお終いなのだが
だからといって何をしても言い訳ではないだろうに。自慢の草の者たちを無駄遣いしないでくれ。
自信満々に胸を張る幸隆には勘助の長年の恨み、非難交じりの視線は無意味だった。
「面白ければなんでもよいというわけではないでしょうに…」
「まあ、その通りだがな。勿論行動にはある程度意味と意思と意義が必要だ。だからお前のときはわしも誠心誠意、細心の注意と綿密な準備と計画を持って事に望んだというのに…つまらん男だ。」
「相変わらずあんたのせいでとんでもないことになった件についての謝罪はないんですか。」
とにもかくにも人への好意の示し方というものが根本から間違っている男だった。
米神に浮かびそうになる血管を(健康の為にも)押し留めながら勘助はげんなりと白湯を啜る。
勘助は思い出す。朝起きたら家中どころか国中に自分の結婚報告がばら撒かれていた日を。
会う人会う人に祝いと嫌味と恨み言を投げかけられ、由布姫には「そう」で片付けられ、
信玄には子供の名前を聞かれ、勝頼には子供の希望数を聞かれ、馬場には祝言の日取りを聞かれ、
誤解を解いて周ってくたくたになって帰れば既にほほを染めたリツが三つ指立てて座っていて、
その晩というか直後には全身を赤い鎧で固めた原美濃が怒号と涙と共に襲撃してきた。
そういやどこで借りてきたんだろうか、あの鎧。
結局誤解が誤解だと完全に分かってもらえるまでまるまる一ヶ月かかった。
というか勘助がいち早く幸隆の仕業だと気づいてその行動を押さえにかからなければ
今頃自分はリツと結婚することになっていたかもしれない。
勘助が真田邸に文句と共に怒鳴り込んだとき、この男は優秀な草の者たちを総動員して
祝言の招待状を書いていた。見つかったときの悪びれも無い表情は今でも忘れない。
あの事件を思い出すだけで全身にどっと疲れが押し寄せてくるようだ。
結局由布姫には「そう」で片付けられ、晴信には残念がられ、
勝頼には本気で未来を心配され、馬場には贈り物を用意した手間をどうしてくれると怒られ、
リツにはこっそり舌打ちをされ、原美濃には勿論思い切りぶん殴られた。理不尽だった。
「くそー…あれだけの速さで見破って噂の根と言う根を断ち切って見せたお前は流石だがなー。あーあ…二ヶ月もかけて準備したのになぁ。源五郎にも”山本殿のためだ!”とかいって協力させたのに。お前俺の可愛い息子の純情を弄んだ挙句あの仕打ち、痛む心さえないというのか!」
「その台詞はそっくりそのままお返しいたすのですがな!!あんたあの後ちゃんと謝ったんでしょうな!?」
「お前には一応謝っただろう。」
「それはそれは奇跡的なほど誠意の欠片も感じられない謝罪を頂きました。」
もはや謝罪とは呼べないそれを。
不満げに唇を尖らせる仕草はいい年こいたおっさんにやってもらっても気持ち悪いだけである。
勿論愛嬌もクソもあったものではない。失敗失敗!と舌を出して形のよい頭を叩いた
あのときの幸隆の顔を勘助は忘れたくても忘れることが出来ない。しかも謝ったつもりらしかった。
そんな青ざめた勘助の顔が更に面白くてたまらないのか、幸隆は再び声を上げた笑い出した。
それにしても気持ちのいいくらいよく笑う男だ。
そろそろ呆れも通り越そうかという勘助の片方だけの瞳と、ふと。
天井を仰いでいた幸隆の――笑いすぎてほんの少し涙の滲んだそれがかちあった。
「面白いことはいい、好きだ。そうやって笑えることは、いつか必ず糧になる。」
それこそ地獄の中でも。
小さくそう続けた幸隆の瞳がほんの一瞬穏やかになるのを、勘助は確かに見た。
瞬きのような時間が過ぎると共に再びその目は意地悪く細められ、
三人のうちだれだろう、兄を呼ぶ言葉が届くを皮切りに盛大に笑い声が響いた。
幸隆は面白いことを何より好む。
恐らく馬場辺りに言わせれば一人でやって一人で完結して欲しいだろうそれは
例えば彼の家臣たちを子供たちを振り回し、嵐のような一騒動を起こしながらも
結局は笑い話になり、思い出話になり、生き生きとした力となって彼の家を駆け巡る。
笑い、泣き、憤り、悲しみ、悔しがり、喜び、逞しく。
訪れる真田家はいつだって生きる力に満ち溢れている。
まるで眩しいものを見るように勘助は目を細めた。
目を閉じれば嘗て彼の憧れたものたちが、瞼の裏を通り過ぎては消えていく。
「勘助、お前もいい加減気づけばいいのだ。」
「………………。」
何気なく、しかしはっきりと勘助に届くよう呟かれた友の言葉に勘助は沈黙で答えた。
年の離れたこの友の言はどんなに皮肉めいていようとおどけた体であったとしても、
相手を思いやる真摯な優しさを含んだそれであることを勘助は痛いほど知っている。
そして、幸隆が勘助の身を損得無しにどれだけ案じてくれているのかということも。
友の親愛を身に痛いほど感じながら、しかし勘助は口を閉ざさざるを得なかった。
幸隆の言わんとしていることを、分からない勘助ではない。
「気づけ」と幸隆は言っていたが、本当のところを言えば勘助はずっと前から気づいている。
勘助がそうして目を逸らし続けていることを、幸隆も知っている。
知っているからこそ彼はこうして時々彼に忠告を投げかけたとしても強制はしないのだ。
年下の友の心遣いに甘えることを恥じながらも、勘助は今日も押し黙る。
幸隆もそれ以上は何も言わなかった。何事も無かったかのように時間を置いて聞こえる
子供の甲高い声にくつくつと笑い声を殺している。
だから勘助も、何事も無かったかのように溜息をついて白湯を啜った。
子供達の悲鳴にどうしてやることも出来ない己の無力さを心中で詫びるばかりである。
とうとう我慢やら怒りやらやるせなさやらが頂点に達し、そして堰を越えたのだろう。
その意味までは聞き取れない甲高い叫び声を一度あげ、溢れる感情をありのままに映した
乱暴な足音と気配が、この事件の黒幕を捜してこちらに近づいてくるのが分かる。
喚く子供達の熱気が、家中の者達の呆れと驚きが、幸隆のしたり顔が、
家全体を巡り流れる空気となってありのままを勘助に伝える。
肌に染み入るそれに掻き立てられる心の疼きを、世の人はなんと名づけるだろうか。
(例えば、あの方は。)
勘助の想い出の中で、漆黒の長い睫がゆっくりと持ち上げられる。
勘助は同じ艶やかな漆黒に覆われた細く小さな背中を見つめている。背中だけを見つめている。
背中だけを見つめていても、勘助には分かる。人にどれだけ思い上がりと勘違いと罵られようとも。
たった一つしかなくなってしまった己が眼の盲目さを理解してなお、勘助は己を疑わない。
ああ、姫様。姫様は、今、確かに―――――
幸隆の笑い声がまるで足音を挑発するように大きくなる。それに応える様に気配は近づく。
悲しいかな、恐らく十中八九、足音の主たちはここに辿りついたとて
かの男の邪悪極まりない満面の笑みを微塵たりとも崩すことは叶わぬのだろう。
ならば、不肖この山本勘助、たまには弱きものの味方として其の知を奮ってみるべきではないか。
勝ち目の無い戦もたまには良い――いやいやいや、良くは無い。やるからには必ず勝利してみせる。
片方だけの瞳をついと上げると、天井から下ってきた男の視線とぴったり交わる。
面白くなってきた、と不適に笑う幸隆に勘助の顔も自然と緩んだ。
もはや当事者である子供達の事情などどこ吹く風、辿りついた先で彼らのまったく
知らぬ存ぜぬ関わりもせぬ戦いに巻き込まれてしまうことなど、子供達は知るよしもなかった。
静かにあがっていく幕の裏で、二人の男は示し合わせたように笑う。
惜しむらくは、其の笑顔を彼自身が見ることができないことだ。
幸隆様と勘リツのドタバタが書きたかっただけでしたごめんなさい。
しかも勘リツ入んなかった(死)
再び検索に登録させていただこうかというときに何もないのもアレなので。
コメントありがとうございます!!卒論終了祝い本当に嬉しいです。
あったけぇ・・・かあちゃん、世間はあったけえよ・・・!!おいちゃん頑張るよ・・・!!
今度こそいろいろご挨拶に行かせて頂きたいと思います。
拍手本当にありがとうございました!!
「私は喝采を所望する」(真田幸村)
真田幸村と大坂の陣。最初で最後の戦。
色々と考えて、やるからにはやはりとびきり恰好良く死なねばならないと思った。
(う~ん…完全なる我儘ですから当然というか自業自得なんですが、難しいなあ。)
そもそもここに来てからこんなことを考えていること自体が
お粗末なんじゃないかと思ったが、あえて見なかったことにした。
ここまで来たからには細かいことをうだうだ考えるのはやめると決めたのだ。
ちなみに我が愛する妻の助言である。
あなた、もともと細かいことを考えられるようにできてないでしょう、だそうだ。
だってその必要がなかったのだ、と反論しようとも思ったが止めておいた。
多分もっと呆れられるか怒られるのかの二択になる。意味もないのに虎穴に入ってどうする。
今となっては何もかもが詮なき事であるし、何より妻が怖かった。
それでも大好きだけど。むしろ今すぐ会いたいくらいですが。
地面にがりがりと意味のない線を意味もなくひっぱりながら、信繁は思考をぐるぐると回した。
(そもそも世間ではどういうものをかっこいいと思うんでしょうねぇ。私は正直この年になってようやく自分の好みが当てにならないことを自覚したばっかりなんですが。かっこいい、かっこいいと言ったらやっぱり源三なんですが。ああ、でも源三は生きててもらわなきゃ困ります。第一良く考えたら源三は何をやっていてもかっこよかったなあ。やっぱりああいうのは根本から違うんでしょうかね。あ、義姉上はかっこいいと思いますねえ。沼田での啖呵なんか正直痺れちゃいました。ということは本多殿も多分かっこいいんでしょうからとりあえず本多殿を手本にすればいいんですかね。………ああ、俺本多殿のこと詳しく知らないです、駄目だこりゃ。)
結局結論はどん詰まりに陥ったにも拘わらず、
その過程で引き出された思い出の微笑ましさに信繁はふふふ、と笑いを零す。
今となっては遠い思い出で、頭の中で再生される映像は錆ついてところどころ怪しい気がする。
しかし、どんなに記憶の絵が覚束なくとも体が覚える感覚は鮮明だ。
その感覚を丁寧に反芻して、信繁は記憶を遡っていく。
空は美しいが、冬の空気はやはり冷たい。
(かっこいい、なんてあんまり考えたこと無かったな。俺のお手本は全部源三郎でしたし、今だって俺の理想は源三郎だと思ってる。俺は源三の背中を追いかけるだけでよかったんだ。…結局それは言い訳だったのか。こうして一人になったら、結局何も残らなかったんだから。)
記憶の海を泳ぎながら信繁は苦笑する。
ああ、そんな反省は九度山でもう死ぬほど繰り返した。
今すべきことはそんな今更なことではなくて――ああもう、なんか思いつかないかな。
薄っぺらい記憶を必死に隅から隅まで稼働させる。
例えば、――――軍記。
(……楠正成。そうだ、それでいいじゃないか。主君のために恩義のために、父の遺志と無念を継いで怨敵に立ち向かう――うん、ぴったりじゃないですか。それこそ太平記のように語り継がれたら儲けものですねえ。ちょうど親子でいるんですしそれこそ大楠公・小楠公の如く、か。それはかっこいいかもしれない。豊臣家に一応恩義はあるし。ただ親父殿の遺言と全然関係ないのと別に俺は家康公を特別怨んじゃいないってところが問題だけど、そんなの誰も分からないだろうし。うん、折角忍びもいるんだしここはこう派手な感じで戦っときたい。こう、負けてもどちらの記憶にも残るような感じで。数百年単位で語り継がれる感じで。おお、目標が見えたらやる気が俄然でてきました!)
思い立ったら何だか気分が高揚してきて、すぐに色んな策を考えなければと
しゃがみこんで足元に地図なり図案なりを書き込んで思案し始める。
まず出城を作ろう。なるべく派手に攻撃がかかりそうな位置がいい―――――
夢中になってある程度組み立てると、やはり別に多くの情報が必要になると分かる。
腰を据えて改めて考える必要がある、と足元の走り書きたちを立ちあがって踏み消した。
折角だから、大助にも考えさせよう。九度山で机上の勝負しかしたことがないのが不安だが、
こうなったら嫌でも身につけてもらわなければならないことはたくさんある。
あとは、城内の諸将や淀の方などに話をつけて―――…面倒くさそうだ、後にしようそれは。
(うんうん、一時はどうなることかと思いましたが何とかなりそうですね。これで、 )
色々と考えて、やるからにはやはりとびきり恰好良く死なねばならないと思った。
これで、何になると思ったのだろうか。
こんなものは父の遺志ではないし、ましてや兄の望みでもない。
端から勝つつもりなどない戦。だから、豊臣家の希望でもないし、
そこに一番大切なものはないのだから、愛した妻の願いでもなかった。
これは意地だ。ただの、悪あがきだ。何のためにも誰のためにもならない信繁自身の我儘だ。
このまま終わるのは惨めで、悔しくて、嫌で仕方がなかったから。
(だから彼は大楠公などであるはずがない、彼の傲慢は息子をここで殺すのだから。)
本当は誰も彼の行為を称賛などするはずもない。
(だからこそ。)
やるからにはとびきり恰好良く死なねばならなかった。
これが自分の我儘であるからこそ。
真田のためではなく、自分の意思であるからこそ。
ついでに、ともすれば真田の為になればいいと考えるからこそ。
(いいわけも何もない、正真正銘信繁自身による、信繁自身のための戦。)
やるからには、とびきりの。
つい、と天主を見上げる。
天下人の夢が作り上げた、壮大な山。
できすぎた舞台だ。これだけ巨大で荘厳で派手な城だ、どこからでも分かるに違いない。
きっと親父殿も義父上もあの人も誰一人、見間違えたりしないだろう。
信繁は満足そうに笑う。本当に、最後まで自分は幸せ者だ。
「――――――ご覧あれ。」
初舞台が一世一代の大舞台。
上手くいく自信も保証もどこにもないけれど、最高の幕を引けたらいい。
さあさ、どうぞ尊となく卑となくとびきりの死にざまを目に焼き付けてくれ。
これが、最初で最後の、真田幸村の戦だ。
PHP真田信之の幸村の最期がかっこよすぎたので書いた。余り反省はしていない。
というか最初は天地人合わせのつもりで書いていたんですが、まあ色々とお察しください。
あれからどのくらい立ったのかはわかりませんがこともあろうにとりあえず完成しました(爆)
女性向けを意識したつもりなんですが思ったよりそれっぽくならなかったような気もするので
まあいいや…と晒すことにしました。こ、更新するものがもう何も無いの…!!
あと、ウチの香坂気持ち悪くてホントすいません。
「愛を知りせば」(気持ち山県→高坂の気持ち山県×高坂)
※微女性向け注意!※でも別にそういう描写があるとかじゃないです。むしろ無い。
苦手な方やありえNEEE!!という方は見ないことをオススメします。まだ飯富でまだ春日。
嘗ての彼らと、今の彼ら。
(山県と香坂…飯富と春日)
飯富昌景が春日虎綱のことを回想するとき、
一番初めに頭に浮かぶのは夕焼けの中伸びる影の先に立つ心許ない背中だった。
屋敷の裏の茂みを少し行った先にある崖の下に、その背中はぽつんと立っている。
時折、堪えきれぬ嗚咽交じりにその細い足ががつん、がつんと切り立つ壁を蹴り付ける。
がつん、がつんと、壁は何も言わず、背中も何も言わず、次第にその肩を震わせるだけで
動かなくなった。その垂れた頭が、握り締めた拳が、その背中と合わさりたった一つの影
となって、赤い夕暮れの中に長く長く延びている。
声をかけたことはない。かけることもできない。見つめているだけ。
友ならば声をかけてやるのが情なのに。友ならば黙って立ち去ってやるのが優なのに。
昌景が動かず、声をかけることが出来ない理由は、そのどちらでもないのだ。
ただただ、その目の前の光景に目を奪われて、――――――
とすり、と頭に生じた軽い衝撃と違和感に意識を引き戻される。
振り返れば虎綱がその端正な顔を意地悪く歪めてこちらを笑っていた。
そのからかうような笑顔が気に食わず眉を顰めてから、頭にかかるほんの僅かな重みに気がつく。
先ほどの衝撃の正体かと確認するべく頭上に手を伸ばそうとした手は
馬鹿!と小さく叫んだ香坂の手によって空中で固定され、指先は空しく空を掻いた。
一体全体何なんだ、と口には出さずに怒気と呆れの混じった目で訴えかけようとして、
突如突き出されたものに視界は奪われた。焦点の合わない白。芳しい香りが鼻から吸い込まれて―
「…百合?」
「お、流石のお前でも百合くらいは知ってたか。そう、山百合。綺麗だろ。ちなみに今お前の頭に乗ってんのも同じ。」
折角綺麗に差し込めたんだ、触って崩すんじゃないぞ。
そういってくすくすと笑う虎綱の顔は明らかに面白がっているそれだ。
鏡で確認せずとも分かる。今の自分は相当に滑稽な姿となっているのだろう。
それにしても、少々上の空だったとはいえ虎綱にこのような真似を許すとは。
自分よりずっと背の高い偉丈夫の虎綱からすれば頭上からの攻撃は容易いものだったのだろう。
彼がそれを思いつき、自分が隙を見せまさに格好の的となった瞬間のことを思うと腹立たしい。
虎視眈々と狙っていた機会を手に入れた瞬間のほくそ笑む顔が浮かぶようだった。
「いやあ、頭の中でも色々考えてはいたんだが昌景。お前予想以上に似合ってるぞ。何というか、逆に…ってやつだ。うん、可愛い可愛い。やっぱり外すのは勿体無いぞ?」
「…馬鹿を言え。そうやって人を笑いものにしようとするのは関心せん。」
「おいおい、そりゃあからかう心がないとは言わないがなぁ!相変わらずお堅い奴だなぁ…本当に結構似合ってるってのに。ま、勿論俺ほどではないがな。」
もう一つ手に持っていた百合の束を揺らしてふっ…と不敵に笑う虎綱を、
昌景はいつも通り呆れた瞳で見て現在只一人の観客となってやる。
(だったら、お前がつければいいのに。)
その一言は、喉まで出掛かってしかしゆっくりとその奥に引き戻された。
昔とは違って、虎綱はずっと背が伸びて逞しい体つきの誰もが認める美丈夫に成長した。
たしかに昔のような形でとは言えず少々不自然な構図になるかもしれないが
自分とは違って、それ本来の本当の意味で、今の香坂にも百合の飾りは似合うように思った。
言うまでもない。虎綱は笑い飛ばすだろう、とあと、もう一つ、ふと、思ってしまったことが
何となく昌景にその冗談めいた一言を、冷たく引っ込めさせた。
飯富昌景が春日虎綱のことを回想するとき、
一番初めに頭に浮かぶのは夕焼けの中伸びる影の先に立つ心許ない背中だった。
夕暮れに佇む背中は、少年は黙って、ただ歯を食いしばって孤独に屈辱に痛みに耐えている。
がつん、がつんと細い足が切り立つ荒い壁を何度も何度も蹴りつける。何度も、何度も。
(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょう…)
その天から授けられた端正な顔が、涙で、鼻水で、憎悪で憤怒で悲しみで苦しみで
壮絶に歪む。どうにも成らないことに対する苛立ちと諦めと、どうにかしようとする
抗う野心と屈服に誘う劣等感がぶつかり合ってせめぎあって、それらを飲み込んで醜く歪む。
大切な友人。美しい少年。百姓上がりの。才気に満ち溢れた。稚児と揶揄されて。頑固な自信家。
負けん気ばかり強い捻くれもの。けれど誰よりも何よりもまっすぐ只管に、努力し続ける――――
夕焼けに取り残されたその背中に、しかし昌景は声をかけたことは無い、かけることは出来なかった。
情けからでもなく、優しさからでもなく、昌景はただ呆然とその光景に目を奪われている。
彼の悲鳴も慟哭も、誰にも届くことはない。届かせまいと飲み込む醜悪なその様を、
昌景は美しいと思ってしまった。絵画のように切り取っても、言葉にして紙に刻んでも、
捉えきることなど叶いはしないだろうその壮烈な美は、昌景の網膜に痛いほど焼きついた。
声をかけたことはない、かけることなど出来ない。けれど、立ち去ることも出来なくて。
背中が啼く、闇の帳は落ちて行く。
その場から動くことも目を逸らすこともできないあの日の自分を、昌景は今だって――――
「――――――源四郎!!」
「………ッ!」
ぼすっと鼻につく花粉の香りと瑞々しい花弁の感触で白昼夢は終わった。
終わった、と認識する前に思わず吸い込んでしまった花粉に息が詰まり、そして
「うわっ!汚なっ!!おいおいおい爆発は予告してからやってくれ!!お前のは音がでかいんだよしかも飛距離も達人級なんだよ!!…あーあー…花をぶっ飛ばすかね普通…。」
「う、…うるさッ…ぶえっ!!もとはと、言えばお前が…!!」
「あーあー、悪かったよ…にしたって折角はるばる遊びに来てやった大親友サマの前でぼけーっとしてくれちゃってる方も方だと思うけどなぁ、俺は。」
「…お前が勝手に押しかけてきたんだろう…。」
散々人を笑いものにしてくれた後にしてはあまりに横柄過ぎる態度だ。
くしゃみの件といい元はお前のせいだろうと文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが、
やはりやめた。言っても無駄だという気持ちが半分、後ろめたい気持ちが無いわけではないからだ。
まあいい、どうせこの男に口先ではまず勝てない。
憮然とする昌景を見て、その姿の何が面白いのか虎綱は楽しそうに笑う。
目の前のずっと大人びて男らしくなった端正な顔が笑う姿がかつての少年と重なって、
ぶれて擦れて滲んだ。虎綱は楽しそうに笑う。今も昔も、けれど。
ふと、目の前が再び白くなる。なんだと思う前に、もう三度目だ、理解する。百合の花。
どうやら虎綱は先ほど自分が(不本意にも)吹き飛ばしてしまった束とは別に
更に百合の花の束を持ち合わせていたようで、もう一度そっくり出してきたことを
得意気にしているのか、にやにやしながら再び百合の花束を突き出してきた。
…相変わらず用意のいいことだ。
もう驚いたぞ、と肩をすくめて意思表示しそのまま花束を持つ手を押し返そうとする。
しかし、突きつけられた白い花はいっこうに引き下がる気配は無い。
「…なんだ。」
「早く受け取れ。やるよ、奥方にくれてやれ。ついでにお前とお揃いだぞ?」
だから崩すなよ?と虎綱は自分の頭と昌景の頭を交互にを指差して笑い、
花束を無理矢理昌景の腕の中に押し込んだ。
花がつぶれるのでは、と思ったが幸いそんなことにはならず、淡い香りが鼻腔に届いた。
「…どういうことだ。」
「うわっ…それ本気で言ってんのか…?うわー、御屋形様ー、乙女心の”お”の字も知らない奴がここに居りましてございまするー!」
「…そういうところではない。どういうつもりなのだ、ということを聞いているのだ。」
「………俺だって分かってるよ。はあ…本当冗談の通じない奴だよなぁお前。」
そこまで真面目に返されると俺が馬鹿みたいだ。
虎綱は少し顔を赤くして呆れたように溜息をついた。その溜息の大げささが、
昔からのことだが少々癇に障る。更に憮然とした表情が深まったのだろう、
降参だといわんばかりに両手を挙げて首を横に振った。
「別に、そんな深い意味はないさ。敢えて言うなら俺から新婚の昌景殿に遅ればせながら気の利いたお祝いの品ってところだな。」
「…祝いの品ならもうお前からも貰ったが。」
「だからそういうことじゃないって…まあ、いいや。じゃああれは同僚・虎綱虎綱から、これは親友・春日源五郎サマからお前と奥方様に愛を込めて…ってことにしといてくれ。」
さも妙案を思いついた、というように香坂は―――春日源五郎だった青年は快活に笑った。
虎綱は良く笑う。自分と違って子供のころから、彼が春日源五郎で自分がまだ飯富源四郎だった頃
から。一番沢山、笑った顔を見てきた。見慣れたはずのその笑顔がどこか眩しくて目を細める。
虎綱は今も良く笑う。同じように、意地悪げに、皮肉げに、自信たっぷりに、楽しそうに。
目の前の虎綱の笑顔が、昌景の脳裏の片隅に橙色の靄を呼び起こす。
大切な友人。美しい少年。百姓上がりの。才気に満ち溢れた。稚児と揶揄されて。頑固な自信家。
負けん気ばかり強い捻くれもの。けれど誰よりも何よりもまっすぐ只管に、努力し続ける――――
親友から曰く愛を込めた花束に目を落せば、優しい白の花弁が折り重なり寄り添いあっている。
端正な青年の顔立ちにかつての少年の笑顔が重なって、滲んで、溶けて消えた。
ああ、これは寂寥感、なのだろうか。むずかゆい、喜ばしいような切ないような気持ちにぼんやりする。
虎綱の笑顔に、もうあの日の陰は、ない。
「そうか。ならばありがたく受け取っておく。彼女も、喜ぶだろう。」
「ああ、そうしてくれ。だから頭のは家に帰るまで外すなよ?できればお前から奥方にってことにしたいところだが…」
「そういうことに、嘘をつくのは好かん。」
「はいはい、分かってるよ。だから俺からってことで。」
ほらほら行った行った!と手を振り昌景追いやる虎綱の姿にはて、と首をかしげる。
「寄って行かんのか。」
「このまま俺までついてってどうする。なんだお前俺に奥方取られてもいいのか?」
「それは困るが。…お前もいい加減、身を固めることを考えたらどうだ?」
急にあらぬ方向に話が飛んだと思ったのか、虎綱は少しの間目を瞬かせたが、
直にいつもの余裕たっぷりな態度を持ち直し、大仰な妙な手つきで肩をすくめ腕を組み、
わざとらしい身振り手振りでからかうように笑った。
「考えてなくはないさ。けど、今は他にやりたいことが沢山あるからな。…ま、いざ俺が本気になったらどんな良家の美しいご息女だろうと選り取り見取り、引く手数多ってやつだからな。今は他の男共のために遠慮してやってるんだよ。」
「そうだな。」
その通りだ、と思ったので素直にそう答えると、その答えは先ほどの問いよりずっとずっと
予想外だったようで虎綱はより驚いた様子だった。「へぇ」だか「はぁ」だかよく分からない
呟きを零し目を丸くしていた。そんな様まで絵になる男だ、と何となく思った。
「今のお前ならそうだな。前より、ずっと男前になったからな。」
そんな絵になる男が絶句する様など、今までそしてこれから先どれほど見れるだろう。
虎綱は言葉も無く唖然として、ただぽかんと口を開けた間抜け面で昌景を見つめていた。
そんな間抜け面でも不思議と魅力があるのだから、本当に困ったものだ。
それにしても虎綱のこんな顔は久しぶりだ。不謹慎だが昌景も人の子だ、なんだか可笑しくて
久方ぶりに声を上げて笑った。その笑い声に流石の虎綱も我に返ったようで
ほんのり顔を赤くして何か言おうとして、やっぱりやめて暫く首をかしげていた。
む、む…などと唸りながらなにやら腑に落ちない顔をしていたが
そんなに可笑しいことだろうか。堅物と思われているが自分にだって意趣返しぐらいできるのだ。
「源五郎、やはり寄って行け。その間抜け面ではうちのも靡きはせんだろうから、心配は要らんぞ。」
今度は憮然とした表情でついてくる虎綱を適度にあしらいながら昌景は屋敷への道を
歩き始めた。ああ、よく見ればこの花束は随分綺麗な百合が揃っているのだな、と思い
山路で大真面目に百合の選別をする青年の姿を思い浮かべて自然と頬が緩んだ。
あれから、どのくらいの時間が。
飯富昌景が春日虎綱のことを回想するとき、
一番初めに頭に浮かぶのは夕焼けの中伸びる影の先に立つ心許ない背中だった。
嗚咽を堪えて立つ背中を、昌景はただ黙って立ち尽くし、見つめている。
橙と黒の影絵の世界に沈む想い出は既に遙か遠く、
あのときの少年はもうどこにもいない。あのやせっぽちの震える背中は、どこにも。
けれどあの日々を、今でもあれほど色鮮やかに思い起こせるのは、
あの光景に打ち震えた胸の鼓動を今でもしっかりと反芻できるのは。
ああ、あの日の少年はもうどこにもいない。
今ここで鮮やかに咲くのは、美しく歪んだ遠い孤独に愛を以って根を張った大輪の花だった。
…というなんだかよく分からないお話だったとサ(オイ)もともと時代設定が微妙に違う話を書き直したので「まだ香坂じゃNEEE!!」とか言いながら直すのがめんどくさかったです…なんか色々直し間違えてたら教えてください(人頼みか!)初期段階では山県→香坂がもっと露骨な感じで香坂が「俺は愛を振りまく自由人SA☆」みたいなことをほざいていると言う更に意味不明な話でした。山県と香坂は正反対同士お互いに羨望を抱いているといいな、という妄想を煮詰めるとこんなんになります。孤独で皮肉屋でコンプレックスの塊だった春日少年は愛を知って(細かくなんだとは言わないが)変わって成長したのだよ!とそんな春日少年の成長を見守ってきたからこそ「綺麗になったな…」とおもう山県の話…ってなんだコレ……
うん、まあ出すだけ出してみようかなみたいな話(何じゃそりゃ)
久しぶりの戦国現代学園パロの昌幸と家康の話。
コンセプトは昌幸と家康を仲良くさせようぜ!まあ結果は言わずもがなです(えええ)
家康が囲碁好きだと聞いてカッとなってやった。今はかなり反省している。でも萌えた(オイ)
戦国武将の名をかたった学園パロなのでそういうのが苦手な人は注意してください。
あとはまあ今までの話とは若干毛色が違うというか転生みたいな要素が無くは無いけど
有るとも言えず無いともいえない感じなので(意味不明)注意してください。
戦国時代とは名ばかりの妄想甚だしい学園パロディですよ!それでもよろしいですか?
何が来ようと受け止める覚悟は出来てるぜ!という方のみそのままで。
家康に夢見てる感じが非常に気持ち悪い。
学パロで学生家康と昌幸
↓↓↓↓↓
「真田は僕のことが嫌いなのか。」
カシャン、と昌幸の手から滑り落ちた白い碁石が碁盤の上の石たちを散らす。
対局相手が慌てた声を出すが、覚えているから問題ない、と黙々と碁石を並べなおした。
(いきなり、何を言うかと思えば。)
それが呆れか或いは怒りかその他かは分からないがとりあえず落ち着け、と自身に言い聞かせる。
手を滑らせたのは図星をつかれたからではない。
あまりに質問が唐突でナンセンスだったからだ、昌幸はそう思っている。
「何で。」
「僕を目の敵にしていないか。」
「別にしてない。」
「部活の見学も渋った。」
「本入部する気があるようには見えなかった。」
「入部したってこうやって君と一局打たせてもらうにも酷く時間がかかった。」
「………たまたま都合が合わなかったんだろ。」
そう言ってふい、と窓の外に顔を向け会話を打ち切ってしまった昌幸に
家康は少々ムッとしたが、その場は黙って自分の碁石を手に取った。
この我慢強さが彼の美徳だと人は言うが昌幸はそうも思わない。
我慢強いのはいい。だが、堪えた分は必ずどこかで還元される。
無かったことにしない、という点で彼は愚鈍ではないが
それ故にそう簡単に気を許せる人間でもない、と昌幸は思う。
(…確かに、好きな部類の人間ではない、が)
多分嫌いでもないはずだ。…多分。おそらく。
平静を装いながら、碁盤の上にまた一つ白を重ねる。
「正直僕は真田に嫌われてると思ってる。」
「……そうか?」
「…だから出来れば率直に言ってほしいんだけどな。僕のことが、嫌いか?」
「…………。」
しばしの逡巡ののち、音はカツリと跳ね返った。
随分と答えにくい質問をぶん投げてくれるじゃないか、と昌幸は内心いらだった。
例え嫌いだったとしても面と向かって嫌いだと言えるかと言うとそのぐらいの良識はある。
第一そんなことを家康に言ったならばあの過保護な取り巻きどもが黙っていないだろう。
不思議なことにどっかから聞きつけてはやってくるのだ。正直面倒くさい。
昌幸は家康が嫌いではないが敢えて言うならばこういうところは嫌いだった。
なんというか、真面目と言うか、真っ向から対峙したいタイプの人間ではないのだ。
やり場の無い苛立ちをせめて相手に気取られないように気を払ったが、
碁石は予想以上に大きな音をたてて碁盤上に押し込まれた。
確かに彼を避けがちであったことは認める。
「…何でそんなこと気にするんだよ。別に俺とお前はクラスも同じでもないし、特別親しくなる理由も無いだろう。馬の合わない人間の一人や二人、いてもおかしくない。」
「…それは、そうだけど。」
「…仮に俺に嫌われていたとしても問題ないだろ。お前、友達多いじゃないか。正直俺なんかと親し
くなっていいことなんか別に無いぞ。お前の周りの奴らなら止めるんじゃないのか?」
「そういう利害関係がどうこうではないだろう。それにちょっと卑下し過ぎなんじゃないのか。」
「卑下してるつもりはないんだがな…何だよ、どうしたいんだ。例えば俺一人に嫌われていることがそんなに問題か。まさか人はこの世全ての人間と仲良く出来て、そう在るべきだなんてなんて世迷いごとを言うんじゃないだろうな、お前は。冗談じゃない。」
そう言ってから少し後悔した。
気づけば感情のままに早口にまくしたててしまったようで、自分の悪癖に舌打をする。
これではほとんど家康のことが(嫌いとは言わないまでも)苦手だと言っているようなものだ。
家康はといえば流石に少し傷ついたような顔をして碁盤に目を落とす。
それは事実だ。昌幸は家康のことが嫌いではない。苦手なのだ。
理由は無い。嫌なことがあったわけでも、何かもめたわけでもない。
初めて出会ったときから、ただ何となく、昌幸は家康が苦手だ。
自分でも不思議だ。自分の周りにいる人間と比べれば家康は比較的善良な部類に入るだろう。
連鎖的に自分の周囲に蔓延る”善良とはいえない”人間たちの癪に障る笑い声が脳内再生され、
自然と眉間に皺がよる。それを昌幸が更に苛立っていると勘違いしたのだろう、
何をしたわけでもないだろうに、堅苦しく頭を下げてすまない、と謝った。
普通に考えたならば謝るべきは自分のほうだと分かっていながら、昌幸がしたことといえば
別に、とぶっきらぼうに返すことだけだった。大人気ないにも程がある。
(……嫌いでは、ない。嫌いじゃないぞ、別に。…けど)
だったら、この言い表しようの無い居心地の悪さはなんなのだろう。
放課後独特の閑散とした空気に広げられる狭い部室に居るのはいつの間にか家康と昌幸だけだった。
最終下校時刻10分前を告げるチャイムが古いスピーカーから妙な加工音となって響き渡る。
勝頼と土屋は大会前だ、特別に遅くまで部活だろうし、曽根はバイトに行くと早くに帰った。
ならばもうすぐこの部室にやってくるのは彼の小うるさい友人たちだけだろう。
それまでにこの対局が終わればいいのだが。
さっさと終わらせてしまいたいだけならばわざと手を抜けばいい。
目の前の彼にそうと悟らせない(例え悟られても手抜きかどうか疑わしい程度の)レベルで
手加減をすることなど昌幸似は容易いことだ。それをしない理由を考えたくはなかった。
自分の手を終えて家康の一手を待つ間、昌幸はパイプ椅子を傾けてぼんやりと窓の外を眺めた。
走り回るサッカー部の中に友人の姿を探そうかと思ったが8秒ほどで諦めて、
視線を校門の外へと移す。長く伸びた影が消え去る坂道は、昌幸の帰り道だ。
ふと、急に酷くあの坂道を駆け上がりたい衝動に駆られた。
あの坂道を上がって、商店街を抜けた先の自転車屋の先で左に曲がる、そこから川を渡って
ずっと、ずっとまっすぐだ。曲がりくねった道を飽きるほどまっすぐ行った先にようやく、
古ぼけた寺の中に宿るぼんやりとした光を見つける。昌幸が生まれ、ずっと育った家だった。
父が適当に直したせいで見るも無残な寺の門をくぐれば、あまり広くは無い境内にいるのは
愛犬の散歩から帰った父と兄、弟だ。夕飯のときを告げる母の声と、姉、騒ぐもう一人の兄の声。
胸を掻き毟られるようだった。今すぐあそこに帰りたい。出来るだけ早く走って、走って。
お帰りなさい、と微笑む家族の声が無性に聞きたい―――――!
「――――ッ!」
がくり、と視界が揺れたような気がした。何もかもが一瞬にして遠ざかり、
気づけばそこは夕日に赤く染められた見慣れた部室だった。当たり前だ、そこに居たのだから。
全身を狂ったような郷愁に支配された昌幸を現実に引き戻したのは
驚くほど怜悧に響いた(ように聞こえた)碁石の音だった。
残っても居ない音がキンキンと余韻を響かせているようで、全ての音が無性に遠い。
その何故だかはっきりしない、宙に浮いたようなあやふやさに包まれた空間で、
しかし、躊躇いがちに呟かれた家康の言葉はよく届いた。
「別に、…君一人特別と言うわけではない、ないけれど、……ただ。」
「………ただ…?」
キリキリと油を差し損ねたゼンマイ仕掛けの人形のように
ぎこちなく家康と向かい合えばその鳶色の瞳と正面からかち合った。
その瞳がいつに無く真剣で、しかしどこと無くいいようのない悲しみを湛えているようで
昌幸は目を逸らしたくてたまらない自身を必死に押しとどめた。
意味の分からない衝動にかきたてられて平然とした態度を取り繕うだけで一杯一杯だった。
聞いてはならないような気がした。
けれど、聞かなければならないような気がした。
昌幸は、家康が嫌いではなかった。嫌いではないのならば、一体なんだというのか。
答えを知る為には踏みとどまらねばならなかった。
ほんの数秒だ。けれど家康の視線から逃れなかった昌幸の姿を見て家康はほんの少し驚き、
穏やかに、嬉しそうに微笑んだ。まるで前世からの宿願でも叶ったかのように。
だから、その顔が何だか泣きそうに見えただなんてなんて馬鹿馬鹿しい見間違いだろう!
「今度は、仲良くできるかと思ったんだ。」
カツリ、と小さな音を立てて碁石がまた一つ盤面に乗った。
昌幸は黙って、自分の碁石を拾い手を伸ばした。今度は、石は落さなかった。
(今度は。)
言葉の意味など知らない。多分、単なる聞き間違えか言い間違えかどちらかだろう。
けれど不思議に耳に残る言葉に危うく共感しそうになる自分に少し戸惑っていた。
いいや、共感という言い方は正しくない。共感などではない。
石が音を立てる。一つ、また一つ、いつの間にか二人の間にあるのはそれだけだった。
呟いた家康も、受け取るべき昌幸も、まるで先ほどのやり取りなど無かったかのように
ただ黙って盤上の戦いに集中している。
昌幸は家康を嫌いではない。知り合って間もない。嫌う理由が無い。嫌う意味も無い。
それは確かな事実だ、事実だが。
(今度は、じゃない。”今度も”無理だろうよ。お前の望む通りには、”今度も”ならない)
何故かは分からない。何故そう思うのかも分からない。しかしそれは酷く冷たい確信だった。
冷静に考えれば酷く自分自身と乖離しているそれは、何故だかすんなりと溶け込んだ。
如何に心中に葛藤あれども、碁盤の先を見る目は冷静だ。それが答えだと、昌幸は思っている。
カツリカツリ、と放課後の部室に石の音が響く。
家康も昌幸も、もう何も喋らない。次に開く言葉は単なる投了の合図だろう。
家康が、自分が何故そんなことを思うのか昌幸には分からない。
ただ漠然と答えが出てしまったことを惜しむ自分がいるような気がしてならなかった。
そんなものは気のせいだと分かっていながら、
もうはっきりと思い出せない彼の笑顔がちらちらと頭を離れなかった。
昌幸は、家康が嫌いではなかった。
(嫌いじゃない。”今度は”、嫌いじゃない筈だった。)
(けど、そこはやっぱり、俺の場所じゃない。)
何か違うのは使用です。何か似たような話ばっかりっていうかもう何が何だか。
「日常は潰えて」(信繁と吉継)
家族と愛と、守るべきものの定義の相違。
どうして。
「そこまで、しなくてはならないんですか。」
心底理解できない、というように信繁は言った。
それが暗に誰のことを指しているかなど聞くまでも無い。
彼にとってそれは遥か遠く、彼岸の出来事に等しいのだ。
「別に君がそうしなければならない、という意味ではありませんよ。君は選ぶことが出来る。」
「欺瞞ですね。いざとなったら、貴方は選択肢など与えないくせに。」
「それは酷い誤解ですよ。本来ならば全てにおいて君は私から自由なんです。」
「………。」
「制約を課しているのは、君自身ですよ。」
それはとても嬉しいことでもあるのですが。
そうやって困ったように、しかしその本当の喜びを、義理の息子を案じる気持ちも
隠すことも無くありのままに微笑む吉継が信繁は苦手だった。嫌いではない。
義父の隣はいつだって居心地が悪くて落ち着かない。
今だって許されるのならこのまま飛び出してどこかに行ってしまいたかった(この場合においてそれを許さないのは勿論信繁自身である)先ほどから合わせることもままならぬ視線をぼんやり地面にさまよわせる。桜の花びらがまた一枚落ちたのを、意味もなく数え脳内に積み上げた。
「…おかしいじゃないですか。」
「はい。」
「俺には、大切なものなんて一つっきりしかなかったんです。それで、今までちゃんと上手くいっていたんです。それでここまでは問題が無かったんです。俺は貴方たちの言うことが理解できません。共感なんて、できるはずもない。」
だのに。
俯いた信繁の礼を欠いたとも取れる発言を吉継は少しも責めない。
黙って続きを促すそれは信繁の言葉を否定も肯定もしない。
卑怯だ、と自分のことを棚に上げて思う。
悪意でもなく好意でもなく、無関心を。将に今までの自分の世界に対するそれだったでは無いか。
必要なかったのだ。それだけで、よかったのだ。
(ずっとそのままでいられたのならば、どんなによかっただろうか!)
「そのままでも、良かったんですよ。けして悪くは無かった。私はそう思います。」
「…今更ですね。けれど、そうです。私は気づきたくなんかなかったですよ。少なくとも、こんな風に、こんな時には。だからもう少し見て見ぬ振りをします。そうしなければ、私はきっと。…軽蔑してくださって構いません。ここまで糾弾されておいて、何を往生際の悪いことを、と。」
「私は糾弾したつもりはありません。そう感じさせてしまったのなら申し訳ありませんが。私は君と話をしたかった。それだけですよ。結果的に苦しめてしまったのならばお詫びしなければなりませんが、ですが。」
苦しいなど。そう言おうとして、やはり言えなかった。紛れも無い事実だったからだ。
何もかもが苦しかった。
此の場に居ることも、息をすることも、考えることも、言葉を紡ぐことも。
何よりも心から自分を労わる義父の穏やかな声と両手で顔を覆った少女の小さな背中が苦しくて、
そんなことを苦しいと感じている自分が酷く情けなく、惨めでさえあった。
吉継が笑う。其の顔が殆ど布で覆われていても、例え信繁が目を背けていても、
吉継の笑顔は信繁の脳裏に酷く焼きついた。最後まで目を合わせることが出来なくて、唇を噛む。
辛くはない、ただ苦しかった。信繁は義父が嫌いではなかった。
信繁は此の世界の誰も、嫌いだと思ったことはなかったのだから。
「身勝手ながらお礼を言わせてもらえますか、信繁。私の娘を愛してくれてありがとう。」
嫌いではない、嫌いではない、嫌いではない。それ以外の言葉を知らない。
辛くはない、ただ苦しい。
どう逆立ちしたって信繁は彼女の望むようになれないし、
彼の為に何をすることもできないからだった。
嫁との出会いで今まで当たり前だったルールの崩壊に直面する信繁さんみたいな話を書きたいなーとずっと思ってたんですが毎度ながらしょっぱい出来です。大谷さんは史実で男前過ぎて困る。これでも嫁が好き過ぎる信繁さんを書いたつもりだった。違くねコレ。