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拍手本当に有難うございます。合宿先でももちろん大河見てきますんで余裕があったら感想書きたいな。
というわけで
まあ、うん…クオリティって美味しいの?みたいなね…(言い残すな)
「ひとりとひとりはそしてふたり」(後醍醐天皇と阿野廉子)
吉野で。打算と欲望と執念の中、それでもここまでやってきた二人のおしまいの話。
死の床に伏した帝の傍に侍ることを許されたものはけして多くはなかった。
しかしながらその一人であることに対しさしたる栄誉も感慨も覚えたことはない。
廉子は彼女だけに許されたその場所で、今日も死に掛けた男の顔を見下ろしている。
呼ばれれば応え、求められれば手を握り、微笑みかけられれば笑い返す。
そんなことを繰り返してもうどれだけの日々が過ぎたというのか。
(もう、うんざりなのだけれど。)
そう溜息をつこうとしては、そうすることすら煩わしいと思う。
全てを感情のままに投げ出してしまいたくとも、もうここはあの懐かしい都ではないのだ。
「………廉子。」
擦れた声が又、彼女を呼ぶ。
疲れた。ああ、酷く疲れた。今だって疲れている。
思えばどうしてこんなことになったというのだ。何故ここでこんなことをしているのだ。
原因を探り出そうとして記憶と共に引きずられる鈍痛に眩暈がする。
痛みには慣れている。苦しみにも、恥辱にも、惨めで貧しい生活にも耐えられる。
なのにこんな風にどうしようもなく疲れてしまっているのはやはり老いのせいなのだ。
歳をとった。時は確かに過ぎ去ったのだ。目の前の男が倒れ伏しているように。
「…………すまぬな、廉子。全ては朕の不徳の為すところよ。」
うるさいわ。そんなのとっくに知ってるのよ。
何度も何度も繰り返された言葉。何度も何度も言ってやろうとした言葉。
しかし一度も形にならなかった問答は今回もその可能性の欠片すら見えずに消え去った。
廉子は重たくて仕方のない頭をゆっくりと振る。煩わしく面倒くさくてたまらなかったけれど。
その動作があまりに自然に、まるで条件反射か何かのように意図する間もなく行われた
ものだったから、自分のことであるというのに廉子は遠い意識の中で少し驚いた。
ああ、でもそれだけ何度も何度も繰り返してることだわ。癖になったのね。
間もなくそんな結論を出して、では初めてそうしたとき自分は何を考えていたのか、
どうして癖になる前に男に本音を突きつけてやらなかったのかと内心舌打する。
そんなに昔でも無いくせにもう思い出すことも出来ない過去の自分に言っても仕方がないことだが。
ああ、こんなことも思い出すことが出来ないなんて。
自分の頭も随分鈍ったもの。酷く老いてしまったもの。
愚かなこと。そんな風に老いていくのに気づかずにここまで来てしまったなんて。
そして馬鹿みたい。この帝も結局、自分の本性に気づかずにここまで来たなんて。
こうして二人、ここまで一緒に来たなんて。
(ここまで。)
病身に障ってはと今はいくつもの壁を通り過ごした向こうにあるだろう
山々を、木々を、風を、鳥の声を、慣れることない静けさを思う。
思えばこの男について遠く遠く、遠く歩いてきた。その果てがこの吉野。
目を閉じて追想に耽っているだろう男のそれに、色は付いているのだろうか。
色あせ錆付いた回想を切り捨てて、廉子は男の言葉に耳を貸した。
「……朕は、全ての為に力を尽くしてきたつもりだった。その為にそなたを蔑ろにすることもあった。それだけ…それだけのものを天下泰平の…朕が夢に注いできたつもりだった。…されど、その結果がこれよ。結局朕は…何も。犠牲を強いてきたそなたにも……何も…いや…」
恒良、成良。
ぼそぼそとひび割れた唇がうめく形は何故かはっきり廉子には伝わり、
ふわふわと地につかずにあやふやだった彼女の世界に鈍い、だが確かな痛みを走らせた。
穿たれた痛みから沁み込むようにじわりと広がっていくのは怒りなのだろうか。或いは。
ただ、思考も身体もその感情に任せるにしては披露しきっていた。
面倒だと思いながら、それでも熱に呼応する部分が身のうちでカリカリともがいている様だ。
溜息さえも形になりそうに無かった。
そうよ、全部この男のせい。どこよ恒良はどこ成良はどこあの子達はあの子達は馬鹿ね自分で決めたんでしょう?あの子達も私も自分でそう考えたんでしょう?笑わせるわ、賭けに負けただけ。張った駒が二つ落ちただけ。まだいるわ、私にはあの子が、だから何よ今更こんなところで帝でいることに何の意味が?賭けならもうとっくに終わりよお馬鹿さんもう何もかもが台無し!息巻いた果てがこんなところでこんな男と死んでいくだけああ、素敵な人生だったわね!嫌よこんな終わり満足できるの?それが結果よ全てじゃない今更責任転嫁なんて惨めなことね違う違うそんなんじゃない自業自得なんかじゃない後悔して無い間違ってないまだ終わってなんか無いわ終わりなんか無いわ終わりなんか終わりなんか終わりなん
(…ああ、うるさい。)
さっきから誰と何を喋っているのだろう。自分のことなのに、そう考えて少し可笑しくなる。
だから思わず笑ってしまったはずなのに、男はまた痛ましげな顔をする。
その顔は嫌い。まるで、私が哀れまれているみたいじゃないか。
私が、この男に。この哀れな男に。
夢ばかり見て、夢に敗れて、夢から覚めることなく死んでいく哀れむべき男に。私が。
(なによ、それ)
思い出したかのように突如込み上げる不快感に眉を顰めた。顰めたつもりだ。
先ほどの怒りと交じり合い臓腑の内から喉の手前まで縦横無尽に暴れ狂うそれが
いっそ吐き出せないのがもどかしい。口惜しい。腹立たしい。
今すぐ爆発させてしまいたいような感情の高ぶりとは対照的に
指一本動かすことすら躊躇わずにはいられない冷たく重い体。
いっそ病を患っているは自分のほうではないかとすら思ってしまうくらいに。
痩せた男の黒い黒い瞳とかちあった。見覚えのある瞳だった。
目の前の男は何故こんなところに寝そべっているのだろうか。
私は何故こんなところにいるのだろうか。
男は何をしているのだろうか。私は何をしているのだろうか。
ここはどこだったろうか。私とこの男はどこにいただろうか。
男は何をしてきたのだろうか。私は何をしてきたのだろうか。
その手は誰の手で、この手は誰のものだっただろうか。
こんなに痛くて苦しくて気持ち悪くて億劫で体が重くて苛苛して辛いのに
どうしてそこに伏しているのは私じゃないんだろう。
男が背負うべき痛みを苦しみをを何で私が味わわなきゃいけないんだろう
死に逝くのは男。男なのに。死に逝くのは、死に逝くのは、死に逝くのは、
死に、逝くのは 、
「…すまぬ、な。廉子。すまぬ。朕はそなたを、そなたに、朕は……………」
続きは擦れて途切れて、重ねられた唇に吸い込まれた。
互いに力もなく触れるだけ。しかしだから、続きは彼女だけのもの。
廉子が覆いかぶさるような形で真正面から見つめあう二人には言葉も無く表情も無い。
お互いをしかと捉えながら、恐らく、通じ合うものさえなかった。何も無かった。
それでもその無為な静寂を二人はたっぷりと味わった。
目を逸らさぬまま、目を逸らせぬまま、吐息を感じるしては少々遠すぎる二人の間で、
男が静かに微笑んだ。
御上、と呼ぼうとして声がでないことに気がついた。
声がでないことに気づくのに一拍遅れて、そう言えば何を言うつもりだったのか、
何も考えていなかったことに気づいた。
けれど、例えば何か言うべきことがあったとして、口に出来たのだろうか。
もう確かめようなどあるはずも無い。同じ時は、同じ瞬間は、二度とやってこない。
もう二度と。二度と。
「……だから、廉子。泣かないでくれ。泣かないでくれぬか…」
うるさいわね、泣いてなんかいないわ。
何度も何度も繰り返された言葉。形は違えど何度も言ってやった言葉。
それが言えなくなったのは、いつからだったのか。もう思い出せなかった。
うるさい。うるさいわね。知ったような口を利かないで。泣いてなんかいないわ。
最期まで見当違いなことばっかりね。馬鹿な人。そんなんだからこんなことになるのよ。
そんなあんたがいなくなったって死んだって別になんてこと無いわ。どうってことないの。
あんたを慕う人なんてあんたが思ってるよりずっとずっと少ないんだから。
むしろ皆ほっとするわ、ご苦労様。良かったわね、別に心配なんか要らないわ。
私にはあの子がいるし、ここだって親房が上手くやっていくでしょうし。もう十分よ。
散々世の中をひっかきまわしてくれちゃって。むしろ退場が遅かったくらいなんじゃない?
恨み言を言われないだけ感謝しなさいよ。余計なことばっかりしてくれちゃって。
この世からあんたが消えたってどうってことないのよ。特別なんかじゃないの。
誰も何も思わないわよ。誰もどうにもならないわよ。何もどうとも変わらないわよ。
馬鹿な人。哀れな人。愚かな人。笑ってあげたいわ。可哀相ね。可哀相。可哀相…
「……廉子、泣くな。」
帝の痩せた手が廉子の頬に伸ばされようとして、やはり届かなくて廉子がその手を取った。
力強かった手。大きかった手。何度も抱きしめてもらった手。
無骨なくせに存外繊細で、似つかわしくなかった、うっとおしかった、暑苦しかった、優しかった…
いつから笑えなくなったのか、いつから止められなくなったのか思い出せない嗚咽が
廉子の全身を内臓から震わせて、喉をせりあがっては虚空に消えた。
今まで数え切れないぐらいしてきた嘘泣きの中でも、一度だって出来たことのないような、
一等の出来だと我ながら思った。上等すぎて、途中で止められそうに無いくらい。
どこから誰が見たって、悲しみに慟哭する女の姿に胸を打たれるに違いないくらい。
れんし。れんし。かなうならば、そなたと、もういちど
かなう、ならば、もういちど、
もう彼女を抱きしめることも髪をなぜることも出来ぬ帝が優しい声でその名を呼ぶ。
あんまり上手くできたものだから、調子に乗ってしまったのかもしれない。
意味を成さぬ、言葉にならぬ子供のような悲鳴まであげて帝にすがりつく自分が
酷く滑稽で、なのに笑ってくれる誰かはどこにも居なかった。
廉子最後にデレる(台無し)いやデレてないんですけど。個人的には今までもデレっデレだったんですけど(それはねぇよ)後醍醐と廉子のことを考えてたらぬおおおおおとなった前の妄想の勢いで書いたんでいろいろ仕様ですがいつものことだよね!廉子は悪い女かもしれないけど、それでも後醍醐の傍にずっといてくれたんだよなぁと考えると後醍醐好きにはたまらないというか。出会い→正中・元弘の変→隠岐配流→カムバック→建武新政→護良殺害→吉野(今ココ)→そして死後みたいに要所要所でこの二人を書いていきたい…というか書いていけたらよかったね(オイ)後醍醐死後の廉子と親房の話が書きたいです。