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昌山いいですよね。ツンデレ×ツンデレ。
静やかな終焉(山手殿と信幸)
昌幸死後。昌幸の死の報を聞いた山手殿と信幸の話。
昌←山気味な信幸の話。
父上が、亡くなりました。
そう努めて冷静を保った声色でそう伝えれば、母は酷く平坦な声で、そう、とだけ答えた。
母の性格からして取り乱すとは思わなかったが、その異常なほど冷静すぎる様子に少々面食らう。
覚悟はしていたかもしれない。
けれど目の前の母のそれは、恐らく覚悟に起因するものではない。
母は悲しみも憤りもその顔に浮かべることなくぼんやりと庭を見ている。
年老いた横顔から美しさと気品は失われてはいない。
しかし嘗ての張り詰めた空気と強い瞳は、もうどこにも無いように思った。
「…源三郎、不思議ね。」
「母上。」
「私、あの人が死ぬことなんかないと思っていたわ。どうしてかしら。」
可笑しいわね、と山手は心底不思議そうに首をかしげた。
目の前の源三郎に向かいながら、独り言のように山手は続ける。
「昔は心配していたものだけど。何度も何度も今度はもう駄目かもしれないと思ったわ。
けれどあの人はやっぱり帰ってくるものだから。何度も何度も…多くのことがあって、
あの人はそれでも生きていたものだから。そして憎まれ口を叩いてまた出て行くの。」
だから、あの人は死んだりしないのだと思っていたわ。
そう言って可笑しくてたまらないと言ったように山手は微笑した。
そこに自嘲の色はない。
純粋な不思議さと可笑しさをこめて、山手はまるで少女のように微笑んだ。
「けれど、あの人は死んだのね。」
「………………はい。」
す、と吐き出された事実に信幸は苦しげに頷いた。
信幸には今の母の心中が測りかねたが、それでも感じる悲しみが辛かった。
出来ることならば、母を九度山に行かせてやれればよかったのに。
それが出来るはずがなかったことを分かっていながら信幸は後悔した。
息子でありながら母を慰める言葉の一つも持たぬ己の不甲斐無さを恥じ、俯き唇を噛んだ。
あの日、上田を発った日。結局、あれが父と母の最後の別れだった。
「…源次郎は、ちゃんと傍についていてくれたかしら。最期まで隣に居てくれたかしら。」
「…はい、源次は…父上が亡くなるその時まで傍に。最期を、看取ったそうです。」
そう、とまた山手は言った。
ただぽつんとそう言ったきりだった。
山手はまたぼんやりと庭を眺め、そして
「あの人、淋しくなかったかしら。」
は、と思わず信幸は伏せていた顔を上げた。
山手はずっと庭を見つめ続けている。
それはまるで親が遠くに行った子供を心配するような、寂しさと優しさを含んだ言葉だった。
親の眼差しを持ちながら、酷く子供じみた言葉だった。
「あんな淋しい人も、死んでしまうのね。」
もはや庭でさえないどこか遠くを見つめ続けている山手がそう呟いたのを
聞かなければよかったのだろうと信幸は思った。
それは自分が聞くべき言葉ではなかったし、誰が聞くべき言葉でもないように思われた。
悲しんでいるのか、儚んでいるのか。
或いは哀れんでいたのかもしれないし、案じているのかもしれなかった。
ただ単純に母は”そうであること”を納得したのだと思う。
それと同時にどうしようもない終わりが近づいていることを理解しなければならなかった。
母の視線が通り過ぎる庭は嘗ての風景と何一つ交じり合わない。
(悔いて、いるのだろうか。)
嘗ての父と母を、家族の日々を思い返し、信幸は目を閉じた。
父の最期も、母の心中も、弟の今も何一つとして分からない。
ただもう解れていくのを見ていることしかできない中に取り残されることを感じて、
感覚がなくなるほど強く拳を握り締めた。
「ねぇ、源三郎。」
信幸にはもう何も出来ない。
この場所に、何があっても立ち続ける他ないのだ。
それから数年もせず、山手は死んだ。
結局本当にギリギリのギリギリまで素直になれない昌山が好きです。
浮気性ツンデレ×プライド高いツンデレがどうしようもなさ過ぎて萌えます。
けれどこれは昌山じゃないので今度学園モノあたりでリベンジします…
信幸が好きなんですけど信幸が良すぎて巧く表現できません(爆)
最初にあったものが何にも無くなっても生き続けた信幸は強すぎるし切なすぎます…